今年度は、機械産業とりわけ工作機械、二次加工機の産地におけるフレキシビリティとインフォーマルな労働の実態を質問紙法による郵送調査と非構造的聞き取り法による事例調査とを実施することで明らかにした。調査地は当初の予定であった長野県坂城町、上田市、新潟県長岡市、燕市に、さらに東京都大田区を加えた。郵送調査は経営者に関する質問紙により経営者の企業家性を主に測定し、従業員と機械設備の質問紙によりフレキシビリティ度を測定した。ケース調査では各産地で特徴的な企業の聞き取りからフレキシブルな企業、企業間ネットワーク、インフォーマル労働の利用の典型例を析出した。分析はまだ完了していないが、次の諸点が明らかになった。 (1)産地によってフレキシビリティ度とインフォーマリティ依存度にかなりの開きがある。大田区や坂城町の機械工業の中小企業は機械装置の技術体系や従業員の技能のフレキシビリティは大手機械メーカーと遜色がない。一方、燕市ではインフォーマル労働への依存が顕著にみられる。長岡では両タイプの企業が混在している。 (2)調査した産地の機械工業のインフォーマル労働の利用は主に女子パート労働力や家族労働力の利用であり、外国人労働力の利用は、他の産地とりわけ自動車工業の地域と比べると多いとは言えない。 (3)長岡市、大田区、坂城町の一部でネットワーク型の企業提携がみられるが全体の傾向とはなっていない。 (4)各産地とも下請け企業の親企業一社専属体制は完全に崩れている。しかし、このことが直ちに発注企業と下請け企業との間の技術的相互依存への移行をもたらしているとは言えない。下請けの中に顧客のアイデアを設計し商品化する能力を持つに至り独立メーカー化しているところもあるが必ずしも大勢を占めるには至っていない。
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