今年度は、ニット、金属雑貨産地におけるフレキシビリティとインフォーマルな労働の実態を、質問紙法による郵送調査と非構造的聞き取り法による事例調査を併用して、明らかにした。調査地はニット産業では新潟県(五泉、見附、加茂、栃尾)、東京都(墨田区の東京横編組合、東京FF組合)、福島県(保原、梁川)、愛知県(名古屋、岡崎)、金属雑貨産業では新潟県(燕)とした。質問紙では前年の機械工業と併せて、262社から回答を得て、解析にかけている。ケースとしては、機械工業では東京都大田区の製品開発型企業や戦略的ネットワークを展開している企業を、またニット産業では墨田区の提案型でQR対応をしている企業や一枚流しなどのポストフォーディズム的生産方式を導入している企業の聞き取りを行った。これから明らかになった主要な点は次の通りである。 (1)経営者の企業家性は、因子分析によると、イノベーション力、ベンチャー度、人材育成力、戦略策定・実践力、調整力、ネットワーク展開力からなることが分かった。 (2)ニット産業ではイノベーション、戦略策定、調整力を重視する経営者が、機械産業ではベンチャー度、人材育成力を重視する経営者が、そして金属雑貨ではネットワーク展開力を重視する経営者が多かった。 (3)経営者の仕事観では、目的的-手段的、会社中心-自己中心、ユニーク-人並み、進取性-適合性の四つの軸が検出された。 (4)ニット産業ではユニーク度の高い経営者、機械産業では進取性の高い経営者、金属雑貨では目的的仕事観と自己中心性の強い経営者が多かった。 (5)東京の産地はおしなべて、生産拠点を地方や海外に移転し、製品開発型企業が残り、従来型の専属した請けが淘汰されつつある。 (6)地方産業では、各産業とも、各工程がフルで揃っている社会的分業体制が維持されているが、製品開発力(マ-チャンダイズ、設計・デザイン力、商品化力)のない企業は今後生き残りが難しいと思われる。一方で、産地ブランドやメーカー直売も進み、市場感応的メーカーが育ってきている。
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