今年度の研究は、国民国家の形成と都市化の関係を前年度の研究を引きついで、展開するにあたり、われわれ日本人の国民国家像の前提となっている、国家意識をイギリス東北部の調査地域からの帰国者の意識調査を通じて分析しようと試みた。 日本人が海外で生活すると、まったくコスモポリタンのようになってしまう一部の人間を除いて、通常、強く日本人意識をもつようになる。そのなかで、日本とヨーロッパの社会の相違を考えるようになる。今年度はこの点に絞って、研究を進めた。なお、調査にあたっては、ノ-サンブリア大学のマリ-・コンティ=ヘルム教授の助力を得た。さらに調査対象については、北イングランド開発公社の東京支部の協力により、現在判明している東北イングランドの帰国者をピック・アップできた。そして約40名に1997年12月から1998年1月にかけて集中的にインタビューを試みた。 調査対象となったのは、もっぱらこの地域に進出した日系企業の幹部にという特殊な人たちであるが、それだけに返って鋭い指摘をするにいたっている。帰国者は滞在年月の長短にかかわらず、思いの他イギリスの東北部の生活になじんでいたと共に、日本人意識の高揚が見られる反面で、行政組織をはじめ日本の国家機構のあり方に、疑問や反省点を指摘している。また、日本とイギリスの社会のあり方を根底に立ち返って比較検討している人も少なくなかった。これらの調査の分析を通じて、これまで日本で行われてきたヨーロッパの国家論の相対化を行いたい。その上で、先の課題に再度挑戦する予定である。
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