今回の研究目的の第一は『国勢調査以前日本人口統計集成』22巻に基づく、明治・大正期の日本の人口動態の変動に関する諸統計の整理・解析であった。ただ私の関心はこれまで個別の市町村の研究に重点をおいてきたため、府県別よりも、さらに地域範囲を限定して、市郡別ないしは町村別の人口の変遷、人口動態の変化を解明すると同時に、それを地域の産業の発展や社会生活の展開とすきあわせて検討し、さらに全国的変化の中でそれを位置づけてみたいと考えた。平成8年度は、4大都市圏への人口集積過程を明らかにするための基礎統計を『人口統計集成』から抽出・製表を行うと同時に、現地におもむき、必要統計資料の探索・収集を行った。平成9年度には、引き続き『人口統計集成』からの転写・集計・製表を行うのと併行して、明治・大正期に製糸・紡績・織物工業の展開がみられた、北関東の前橋・桐生・足利、および、中部地方の甲府・岡谷・松本・福井の諸地域で、明治以来の繊維産業の発展過程とそれに伴う労働力の集積状況、人口増加及び人口動態の変化についての聞き取りと資料収集を行った。以上の2年度にわたる作業にもとづき、明治・大正期の日本の産業発展ならびに都市化と共に生じた人口転換が、4大都市圏、戦前の重工業都市、地方繊維産業都市、およびその他の都市や農村地域において、それぞれどのような展開を見たのかについて、その輪郭が明らかになった。本報告書では、第一編で日本資本主義の発展と人口動態の特質との関連を論じ、第二編で山形県の一農村を素材に明治から戦前期の間の人口様式の変化を、第三編では重工業都市川崎における工業集積と人口動態の特質について検討した。第四編には『人口統計集成』からの集計表の一部を掲げた。四大都市圏及び繊維都市については他日を期したい。
|