イスラム運動とネットワークに関して、本年度は、第一に、移動のうちでも国内移動に注目してセンサス・データを整理した。革命後のイランでは、76-86年の時期に首都ではなく、地方都市において人口増加が著しい(9.6%)。こうした状況のなかで、イラン西部におけるマイノリティ・エスニック集団が居住する地域と首都テヘラン間の移動、テヘラン→同地域、逆に、同地域→テヘランに注目した。地域レベルでの移動の実態を、一国の移動に加えて検討した。同時に、トルコにおける東部後進地域と西部先進工業地域イスタンブル地域間の、地域間の移動も検討した。また、アラブ地域ではイラクについて、地域レベルでの移動をセンサスの限られたデータをもとに整理した。成果の一部は、国立民族博物館における1月の会議で報告した。第二に、イスラム運動に関しては、パレスチナ問題に関わるレバノンを対象に、キリスト教マロン派、スンニ派、シ-ア派など、エスニック集団ごとに故地と首都レバノン(居住地区レベル)間の移動、さらにそれぞれのエスニック集団ごとに国家を超える移動、19世紀後半にマロン派はエジプト、その後アメリカやラテンアメリカに大量に移動した。これに対してシ-ア派は、19世紀末には西アフリカなどに移動していた。1960年代末からはレバノン国内の好景気などのためにアフリカから還流したが、国内では確立されたエリートにはなれず、シ-ア派イスラム運動の担い手に資金的な援助をした。イスラム運動を支えたシ-ア派に注目し、移動とイスラム化の関連を検討した。移動データの図化などを、さらに進める予定である。
|