本研究では、中東地域に見られるイスラム運動とイスラム回帰現象を、人の移動、文化の移動など、国境を超えるグローバル・リージョナルな動きと関連させて3つの点を検討した。第1に、イスラム運動は、若年層の就業機会の縮小と高学歴化など、社会経済的な問題に密接にかかわるだけでなく、文化の移動、それにかかわる宗教指導者や住民の移動によって大きな影響を受けた。宗教指導者は、知識を求めて中東地域の中で古くからそして現在でも移動しており、シ-ア派の宗教指導者の例に見られるように、親族ネットワークを通じて移動し、流入地やあるいは流出に戻ってその地域のイスラム運動を促進した。文化の移動を支えたもうひとつの層は、レバノンに見られるように、古くは職を求めてカイロから西アフリカ、あるいは、ラテンアメリカまで流出し、最近では国際労働移動によって中東地域に移動して帰国した青年たちであった。移動を支えた二つの集団に注目して移動とネットワークに注目した。 第2に、中東地域を越えたイスラム諸国においてイスラム回帰現象が発生し、それ以外にも、アフリカ、ラテンアメリカ、アジア地域においても宗教化現象、あるいは、伝統志向現象が強まっている。ここでは、もっとも社会学的な視点、階層変化、とくに、伝統的な中間層と新中間層の量的な関係を、世界の主要国のデータ・統計数値を用いて整理した。発展がもたらす新中間層とその過程のおいて力を弱める旧中間層は、イスラム回帰現象や他の地域における伝統主義や宗教化との関係を見たいためである。第3に、イスラム回帰現象や自文化志向現象を文化に密着して基層の点から検討していくために、第三世界の諸国における一連の現象を、コミュニティレベルでの宗教活動など、ビデオやテレビが伝える映像データを、文字データだけでなくできるだけ整理しておく必要がある。このために、映像データなどの収集も試みた。
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