わが国の家族研究のなかで、農村、農民家族の研究に比較して都市社会の、それも労働者家族の調査研究は決して充分な蓄積のある分野ではない。そのため、本テーマにかかる研究では、第一年度には実態調査に入る前提として、主として既存研究の論点の整理と文献の検討から作業に入り、次いで、第二年目(平成9年度)には、大学や官庁諸機関により実施された調査報告類を検討し、その対象となった地域を直接に入り、主として官庁等の担当者との聞取り調査を行なった。本年度は、そうした基礎的な作業を踏えて、当初の目的である実態調査に入った。ただ、その調査対象としては、それまでの文献的検討の結果、重化学工業都市の工業労働者だけでなくて、筆者の関心をもつ都市社会と家族との相互連関のあり方を問うならば、とくに名古屋市のような大都市を対象とする場合には、都市社会内部の伝統的な家族群の変容、分解過程をも考えねば充分でないことが知られた。これは、東海、近畿地方の歴史的個性にもとづくかも知れないが、そこで本年は、名古屋市の伝統産業従事の家族(約1100世帯)を対象に、主にその家族構成の特質について実態調査を行なった。調査は郵送調査で実施し、名古屋伝統産業協会の名簿(平成元年)にもとづいて発送した。現在は、その回収作業を行なっている。その調査でとくに新たに得られた点は、筆者の従来の研究地であった京都市の伝統産業諸家族群とのその構造の差異である。その点について、今後は討究を進めて行きたい。次いで第2の課題は、工業労働者による家族形成についての実態調査であるが、それについては、今年度は数量的検討(主に「国勢調査」による)を行なった。そこでの知見は、当該工業地帯(名古屋南部)の家族構成の特色として「三世代家族世帯」の目立った存在であり、この点についても、他都市(室蘭市、尼崎市)との比較を背景として、討究を続ける予定である。
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