戦後社会では、制度的な変革や社会経済的な条件の変動によって、かつて日本の家族がもっていた伝統的性格は、それ以後の体制のなかでどのように変容し、あるいは解体・保持されたか、その条件を問うことは、今日の家族研究のなかでは大きな課題であった。そこで、本研究は、現代の都市社会のなかで、労働者を中心とする家族が、いかに形成されるかについて、その一端を地方から流入する都市労働者の都市への移住にともなう諸点について実証的に探究した。現代の都市における労働者家族が形成されるには、上記のような地方の農山村出身者による移住だけではなく、もう一方、都市社会内部からの伝統的家族の分解による場合の二面があるが、今回の調査研究では、当初のそうした二方面からの追究は、調査を行ったものの集計だけにとどめて、報告書の形にまで完成させることはできなかった。 本研究では、まず一年度には、それまでの先行研究と既存の調査報告(主に官庁統計)の収集を行なった。東海地域を重点にしながらも全国各地の都市への移住状況とその研究の論点の整理を中心的な作業とした。第二年度では、当初計画していた名古屋市を中心とした東海地域ではなく、とくに筆者が従来より取り組んできた近畿地方の都市(京都市・兵庫県尼崎市)での都市移住者の研究のうえに、それを補充し、展開する形での調査を行なった。兵庫県尼崎市の都市移住者の形成する同郷団体には、その都市の現在の工業力の変化によって、かつてのような若年労働者を吸収する力は見られなく、それぞれの個別家族に分解していく様相が見られた。一方、京都市の富山県出身者を中心とする同郷団体では、前者と同じように高齢化が進行し、老人たちの懐旧的な結びつきの部分が多くなっているが、そのちがいは、依然として都市内部で一定の地域的な結合体のあり方を明らかに残している点であった。
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