今年度の研究目的の第一であった、入所者のライフヒストリーや「家族」意識をさらに深化するためのデータ収集は、国立療養所菊池恵楓園において行うことができた。とくに、戦前期を生き抜いた女性のライフヒストリー収集は、発症率において性比が顕著であった(男性:女性=2〜3:1)時代を生きた「女性」の証言であり、かつ、戦時下の療養所生活を日常生活のレベルでとらえたものである点で、貴重なものである。 また、組織上かつ歴史的な検討は、下記の発表論文「アサイラムにおける『結婚』と『家族的世帯』の形成」において一部おこなっている。この結果、療養所という組織を考察する上で欠かせないものとして、かつて存在した「患者看護制度」の詳細な検討があげられることが明らかとなった。かつての療養所が「強制収容」施設としてどのように機能していたのかは、この点において明らかになると考えられる。現行の看護・介護体制とともに、今後ともさらに検討を進めて行かねばならない事項である。 医療社会学的な視点の導入は、入所者たちのライフヒストリーを「病いの経験」として読み直すことによって可能であることがわかった。たとえば、A.クラインマンやJ.ハーマンらの精神医学的知見の援用で、診療所入所者のあらたな側面が明らかになると思われる。 研究目的の第四としてあげていた、菊池恵楓園と多磨全生園以外の他園の訪問については、香川県にある大島青松園を訪問することができた。菊池・多磨という比較的市街地に近い療養所との違いを、離島に位置する青松園にみることができた。
|