本研究は、文化的再生産論及びライフコース論を基軸に「音楽」という文化的領域において教育の果たす役割、音楽という文化的能力を獲得することの意味、わが国の音楽文化の構造的特質を明らかにすることを目指し、音楽専攻学生の進路選択メカニズムに焦点をあてて音楽的能力の獲得と特殊な教育機会へのアクセスとの関係、その後の進路選択への影響に関する調査を行った。 今回の調査では現在音楽を専攻する学生を対象として音楽に関する知識や技術をいつ、だれからどのように修得してきたか、音楽に関する関心や嗜好がどのように形成されてきたかを加齢、家族関係、教育の形式などに注目してそれらが進路選択にいかに機能しているかを分析した。調査は前述の目的に基づいて作成した調査票を用いて四年前の音楽大学、国立教員養成大学、短期大学音楽科ならびに大学院生を対象とした。有効回答数は313。 調査結果をもとに現在までに行った分析結果から以下若干のまとめを記す。 1.音楽教育歴の特徴 (1)回答者の85%が7歳までに何らかの音楽教育を始めている。 (2)回答者は大学入学までに、長期にわたり重複する形で複数の種類の音楽教育を受け、その多くが初期の段階を除いて個人指導の形式に依っている。 (3)音楽教育を始める契機、継続には、音楽教育の経験のある家族の影響が強い。 2.進路決定に関わる要因 (1)音楽教育を始める年齢は早いが、音楽大学進学を決定するのは、約2分の1が高校時代、3分の1が中学校時代である。 (2)進路決定には学校教育が学業達成の程度やクラブ活動などの文化的活動、教師との出会いなど多面的に関わっている。 (3)大学卒業後の進路については、「音楽を教える仕事」を希望する者が最も多く、演奏家は少ない。しかし、音楽の新しい職業分野に対する関心も高く、進路希望は多様化している。 3.文化的活動 子供時代の文化的活動に対しては、親の学歴と音楽経験が子の世代の文化的活動に影響を及ぼしている。しかし、音楽という領域における文化的再生産のメカニズムについてはさらに詳細な検討が必要である。
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