これまでの日本における多文化教育研究の多くは、多文化教育の「先進国」である欧米の現状や理論を紹介し、それに学ぶという傾向が強かった。また、「文化」や「民族」など、多文化教育研究のなかで所与のものとして考えられることの多かったいくつかの概念に関して、それらの概念そのものを問題とするような研究は非常に少ない。こうした状況に対して、本研究は、まず「多文化教育」が「多民族教育」と実質的に同義に扱われてきたことを批判し、まず、「文化」や「民族」といった重要な概念そのものを問うような理論的検討を重ねてきた。と同時に、「民族」以外の「ジェンダー」、「世代」、「階級」、「地域」などこれまでの日本における多文化教育研究においてあまり注目されてこなかった視点に立つ「文化」の相違に着目した。そして、こうした理論的枠組みの検討と平行して、研究代表者、分担者、協力者がそれぞれの専門地域において、「異文化接触」が引き起こす子育てや教育の変化をたどるような歴史的、思想的、実践的な研究を試みた。 本年度は、昨年度に引き続き「文化」、「民族」、「ジェンダー」、「ナショナリズム」など「多文化教育」をめぐる基本的な概念、理論に関わる文献を収集するとともに、定期的な研究会におけるそれらの文献の講読を通じて諸概念の再検討を行った。その成果は、平成9年10月に行われた教育目標・評価学会において研究協力者によって口頭報告がなされた。また、最終報告書では、従来の日本の多文化教育研究においてあまり注目されてこなかったラテンアメリカ、ロシアに注目するとともに、多文化教育研究のさかんなヨーロッパで出されてきた新たな国際交流の動きにいち早く着目した。海外をケーススタディとした理論的な検討をふまえ、さらに、日本を対象とした教育の思想的、実践的、歴史的検討によって、日本における教育改革の基礎的な研究を目指した。
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