本研究は、次の2点を通して、政治教育における解放概念の具体化の問題を明らかにすることを目的としている。1.解放理念をめぐる論争の分析を通して、(1)解放概念の科学理論的位置づけ、(2)解放と資質、(3)解放と学習目標、(4)解放と学習組織の関係のあり方と問題点を明らかにする。2.授業過程の計画と実施過程の分析を通して、どのような批判能力、問題解決能力、計画能力、分析能力が形成されるかを明らかにする。 以上の目的にそくして実施した平成8年度の研究実績の概要は以下の点である。 1 ノルトライン・ヴェストファーレン邦の政治教育の学習指導要領で、解放概念が問題になるのは、指導要領開発過程の次の場面である:状況設定、基準設定、資質の抽出、学習目標の選定。 2 状況設定では、J.ゲ-プハルトは、フランクフルト学派の社会科学理論にもとづいた構造格子によって問い返された生活状況と現実の状況を同一視できないという批判がなされた。これに対し、W.ガ-ゲルは、問い返された状況は経験科学的に観察された状況であると同時に要求も含んでいるので、本質的なものに限定された鍵的状況を示していると反論した。 3 基準設定の場面では、構造格子の性格が問題にされ、多くの反論がなされている。そのいくつかはフランクフルト学派との関係が厳密でないという批判である。これに対し、W.ガ-ゲルは、構造格子は社会理論の見方を相互に相対的に関係づけるところにその特徴を見いだしている。諸社会理論の命題が統合される構造格子は、政治的社会の事実関係を問題化することが課題であり、ある学派と一面的に結びついているのではない。 4 現実の授業過程の分析では、難民問題をあつかった授業「Asylbewerber und Fluchtlinge in Deutschland」を分析しているところである。
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