本研究は、ドイツの政治教育における解放理念の具体化の過程とその問題点を、解放概念を巡る論争と授業分析次を通して、明らかにすることを目的としている。 1. ノルトライン・ヴェストファーレン邦の政治教育の学習指導要領で、解放概念が問題になるのは状況設定、基準設定、資質の抽出、学習目標の選定の段階である。 2. 基準設定の場面では、構造格子の性格が問題にされ、多くの反論がなされている。そのいくつかはフランクフルト学派との関係が厳密でないという批判である。これに対し、W.ガーゲルは、諸社会理論の命題が統合される構造格子は、政治的社会の事実関係を問題化することが課題であり、ある学派と一面的に結びついているのではない、と反論した。 3. ドイツのノルトライン・ヴエストファーレン州の1974年度版(第2版)と1987年度版(第3版)を比較し、1)民主主義と憲法、2)思考の学習と態度の学習、3)政治教育の目標についての規定は、両者の学習指導要領にあまり相違はないが、4)自己決定と共同決定については、第3版では自己の利害と他者の利害の間の緊張関係および個人的行為と連帯の行為の間の緊張関係が強調されている。 4. 第3版の学習指導要領においては、環境問題と労働問題に関する資質が2つ追加され、新しい現代状況に対応できる資質になった。そして、授業実践への強い関心がみられ、問題志向性と状況志向性がその根底にある。 5. 学習指導要領にどのような教育学の影響があったかを開発段階にレベル区分して明らかにした。
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