研究概要 |
本研究は、江戸時代に蓄積された教育や学習の方法や文化の豊かさを明らかにすること、それによって現代の日本の教育や学習への独自の視点を得ようとするものである。 今年度はまず貝原益軒の学習論を、その著『和俗童子訓』にもとずいて分析し、その成果を「教育システムのなかの身体:貝原益軒における学習と身体」という論文にまとめた。『和俗童子訓』は当時の一般的な学習のあり方を言語化したものと考えられ、近世の学習観をさぐる上に有効である。益軒の思想では朱子学とは逆に、身体性の契機が浮上していること、益軒が重視する「予めする」教育というのが人間形成における模倣と習熟を重視するものであること、その学習の原則は「素読」や「手習い」の学習にも一貫していること、などを論じ、学習における身体性の浮上の歴史的意義を考察した。 12月にはシンガポール国立大学主催の国際シンポジウム“Confucian Currents in East Asia,17 to 19 Centuries"に招かれ、「日本近世儒学における学習論と「知」の位相」と題する報告を行い、日本儒学における学習の特質と儒学諸派における学習法の違いが「知」の位相を規定していることを述べ、それを論文化して提供した。98年3月にはオランダのライデン大学主催の国際シンポジウムに招かれ、「貝原益軒の文化史上の位置」と題する報告を行い、その論文化を進めている。
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