本研究は、近世日本の教育や学習の方法と文化の諸相を明らかにし、それによって現代日本の教育のあり方を相対化し、それを批判する独自の視点を得ようとするものである。今年度は最終年度として、おもにこれまでの研究のまとめの作業を行った。まず3月末に、オランダのLeiden大学の国際アジア研究所主催のシンポジウムに参加し、“KaibaraEkikenn in the History of Japanese Culture"と題して、貝原益軒の思想と学習論のもつ文化史的意義について発表した。98年9月下旬に韓国ソウルの成均館大学校でのシンポジウムに参加し「日本の大学と儒学伝統」と題して、おもに近世儒学と藩校の諸相を発表した(報告書は印刷中)。また、1997年12月にシンガポール国立大学で行ったシンポジウムの報告をもとに、「日本近世儒学における学習論と「知」の位相」と題する論文にまとめて同大学に提出した(現在、英文に翻訳・出版準備中)。本研究の成果は、『「学び」の復権-模倣と習熟-』と題する単行著作にまとめて、1999年3月に刊行した(角川書店)。同書は、手習塾(寺子屋)での学習と藩校や学問塾での儒学の学習の実態を具体的に示し、そこでの学習方法の原理が、貝原益軒の著作において、〈模倣〉と〈習熟〉の方法として言説化していることを解明し、さらにその方法が、職人徒弟制などにもみられることを指摘した。また近世の学習方法が、科学をモデルにした言語を媒介とした近代の「知」とは異質であること、それは自己学習と身体を動員した学習の文化伝統を形成していること、さらにそれが現代の学校の教育や学習にも継承されていることを論じた。
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