本研究は今日主として北米の大学で用いられている「ティーチング・ポートフォリオ」の発展と応用可能性について検討するものである。大学の教員自らによって作成される、すぐれた教育活動の記録ファイルとしての「ティーチング・ポートフォリオ」は北米にその起源をもち、特にアメリカの大学において広く普及してきている。現在多くのアメリカの大学では、教員の授業自己改善のためや、時には昇進や雇用転任の際の教員評価のデータを集めるために、彼らに「ティーチング・ポートフォリオ」を作成することを奨励しているという。 本研究は以上の目的について3つの側面から分析を行った。第一にスタッフ・ディベロップメントに関する国際的な文献、資料を収集し、特に「ティーチング・ポートフォリオ」の実践に関する詳細な情報を入手した。それらを比較分析する際に、「ティーチング・ポートフォリオ」活動の歴史、定義、目的、提案されている書式、手続きおよび評価法に焦点が当てられた。 第二にこれらの欧米での実践を試験的に日本の大学における授業に適用することを試みた。研究者が助手として在籍した京都大学高等教育教授システム開発センターが当時提供していた公開講義『ライフサイクルと教育』を補佐する機会を利用し、日本版「ティーチング・ポートフォリオ」を試験的に作成し、その効果、利点、限界、問題点などについて議論した。その成果は玉川大学出版部より『開かれた大学授業を目指して』(1997)と題する本として出版された。 第三に本研究の推進に際して、海外における先駆的研究者の助言や示唆をあおいだ。1996年には英国に、1997年にはアメリカを訪問し、特にロンドン大学政治学部およびハーバード大学デレック・ボク・教授学習センターでの専門家とのインタビューからは有意義な成果が得られた。
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