本研究は、民族音楽の中でも特に民俗音楽における非分業化、即興演奏による創造、楽譜を介在しない口頭による伝承、という一般特徴に依拠した授業から、民族音楽の受容を試みるものである。本年度は、10月より11月にかけて、少なくとも学校音楽教育内で民族音楽に触れる機会がなかった児童(大阪府四条畷市立四条畷小学校児童5年)を対象に、上述の視点に基づく授業を実施し、その記録観察を行なった。具体的には児童自身が楽器となる素材を試行錯誤で選びつつ主として打奏の膜鳴楽器(太鼓類)を作り、さらに音楽作りを行うものであった。音楽作りでは民族音楽に多く見られる音楽構造および即興演奏の方法に基づき、児童に対して「繰り返し」「始め方と終り方の工夫」および「相手の音をよく聴いて合わせる」という制限のみを与えた。 本年度対象となった児童は民族音楽も創作活動も初めての経験であるが、既に出来上がった音楽を受動的に享受するのではなく、音楽行動一般における最も原初的で基本的な方法で音楽の形成過程すべてを体験することにより、積極的自発的な学習が展開された。授業の中では既存の太鼓に関わる音楽のVTRを見て、太鼓の通時的および共時的な有り様を学習したが、その内容に対して、児童は自らの学習内容との共有部分を見い出すことができ、多くの児童が対象への共感を抱いたようであった。また、音楽表現に必要な技術的能力(拍に合わせる等々)に関しても、児童自らが互いに聞き合いフィードバックを重ねることにより、自ずと向上していく様子が観察された。なお本年度では児童にとっては身近かな膜鳴楽器でありながら、作成過程では膜の扱いに困難があったが、それを児童は様々な工夫で克服を試み、音色や奏法に対して関わる注意を向けるようになった。
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