本研究は3年計画の2年目であるが、昨年度は裏書きにある通り、大学教授市場の公募制についての分析枠組みを検討した。本年度は昨年から分析を開始したA国立大学教育学部に全国から送られてきた過去20年間の公募文書をさらに具体的に分析した。その結果つぎのような成果が得られた。 公募制を導入した大学機関は教育学部市場を主体としたものだけに、教員養成機関の中核をなす新制国立大学が大多数であり、旧帝国大学、公立大学、私立大学は少数であった。公募の職階は若手に比較して予想外に教授職が多かった。この背景には最近になるほど大学院設置に伴う教授層の人材不足による市場原理が機能していた。しかし他方では依然として公募文書に記載された選考基準は職階や年齢を重視する年功序列制が窺われた。さらに公募サイクル、すなわち公募の発送・締め切り・任用のサイクルには職階によって相違することが理解された。教授層には前期と後記にピークがあるが、助手・講師層は後半に一つのピークがあり、職階によるサイクルの移行段階が確認されると同時に、教授層への人材供給が最近の大学院設置や大学改革によって要請されていることが理解された。 これらによって公募制は単なる形式主義から導入されているのではなく、全体として公募制は大学教授の市場原理を反映して導入されつつあることが判明した。本年度に一部の成果は広島大学教育研究センター紀要第27集に報告した。現在はさらに公募制が学閥原理と市場原理のいずれかにより強くに関係しているのか分析作業を進めている。
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