研究概要 |
今までの先行研究によれば,わが国の大学教授市場の特徴は,(1)大学教授市場や組織における流動性が低い,(2)研究大学を中心に自校閥(自家受粉,インブリーディング)の傾向が濃厚である,(3)特定の研究大学の系列化(植民地化)が進んでいる,ことなどにある。平成10年度においては1975年以来およそ20年間,4時点におけるA大学教育学部に送付されてきた1,200件の公募文書によるリクルート分析を試みた。その結果,次のことが理解された。 第一には研究者養成大学においては,一部に公募制導入の兆候は認められるものの,まだ主要な動向となっているとはとても認められない。第二に研究者養成を主としない一般大学や教員養成大学・学部において公募制は着実に定着しつつあると判断される。第三に地方国立大学を中心とした教員養成大学・学部のリクルートにおいて高齢化と職階の高位化が進行してきた。それに伴って若年層の一部は第三のマイナー市場を形成せざるを得ない状況が推測された。第四に同じく地方国立大学を中心とした教員養成大学・学部において教科(専攻)単位のリクルート者の出身校から見た系列率は,過去20年間に大幅に低下してきた。その結果,第五に同じく上記の大学・学部全体において出身校の多様化が促進される傾向を認めることができた。 以上の結論において,もっとも重要な論議の一つは,公募制が学閥の背景ともなる需要サイドの大学・学部の教科(専攻)系列率の低下に直接影響したかどうかである。確かに公募制導入による人事で系列率が低下したことは事実である。しかし,この背景には教員養成大学・学部の修士課程設置という高度化に伴う激烈とも言える激しい人材獲得競争があってはじめて系列率も大幅に低下したと判断される。こうした外圧が低下すると,公募制の人事といえども容易にネポティズムや学閥的な慣行が蘇る可能性を必ずしも否定できない。結論的に言えることは,指名制(推薦制)か公募制かの選択も根元的かつ最終的な選択とはなりえない,又,公募制に切り替えれば問題は解決するといった性格のものでもない。それはわが国の高等教育のシステム全体に係わった問題なのである。
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