言語習得前の聴覚障害児のうち早期から手話・指文字を導入して指導を受けた児童と聴覚口話法により指導を受けた児童を対象として言語および聴能の評価を行った。その結果、1、話しことばにおいては、1)音響・音声学的側面では、明瞭度はどちらの群も1から5の範囲で分布した。韻律性についても、同じ結果が得られた。一方、形態学的側面からは、手指群の方が、文の長さにおいては2〜3文節長く、助詞誤用の少なさや方言などの頻繁な使用が目立った。また構文の複雑さにおいても3階層から4階層文の使用が認められなど、手指使用群での日本語の形態習得上へ効果が大きいことが分かった。また、コミュニケーション場面における語用論的側面の表現の適切さや概念構造および意味ネットワークの複雑さにおいても、聴覚口話群にくらべ、手指使用群では、既知の手指をもとに自分で新たな手指を作り出すなど、意味ネットワークがより複雑に形成されいてる証左を得た。 2、手指導入群において意味ネットワークが平均より複雑な上位群と下位群では、話しことばの音響音声学的面からは有意な差がなかったが、形態学的面からは、差が認められた。 聴覚学習においては、聴能のレベル、環境音受聴検査の成績、話しことばの受聴検査どれをとっても90dB以下ではその子の聴力レベルが一番大きく関わるが、意味ネットワークの複雑さとの関連は認められなかった。しかしながら、以上の結果は、子ども間の個人差が大きいことも事実であり、指導者の取り組みの姿勢や指導実践の違いが、こうした結果に反映されたとも推察されるので、今後指導者との連携のもとに長期的な研究が進められる必要があろう。また、人工内耳装用児および周波数圧縮型補聴器装用児では、聴覚補償の時期による差が大きく、上記の知見とは異なっていた。特に、学齢児時点ではコミュニケーションが成立の可否が、聴覚学習への可能性と関係していたと考えられた。
|