本研究は、「豊かな社会」における新たな学校・教師役割を探ることを目的としている。 研究は、二つの側面から進められた。第一の側面は、わが国の戦後の学校及び教師の役割がどのように変容してきたかについて時系列的把握を行うことを目的とし、戦後の新聞、雑誌記事等の収集・分析を行った。ここで明らかになったのは、1960年代を境にして学校と社会の境界が明確になり、教師や生徒が学校の内部に囲いこまれるような状況が出現したこと、その後さらに、学校の内部で、学校・教師役割(管理・監督、責任の)明確化が進行してきたという点である。 第二の側面は、現在生徒の監督、指導に教師役割が限定されてきているという前年度の知見を念頭に、エスノグラフィーの手法を用いて、学校の内部過程、とりわけ教師の日常の教育行為を観察・記録し、現在の学校での教師の役割とその文化を実態レベルで把握することである。注目すべき知見は、第一に、学校で、教師が生徒と、必ずしも指導上の管理・監督といった形式にとどまらないパーソナルなやりとりを頻繁にしているということであった。それはまた、第二に、教師の職業継続意思や「やりがい」の基盤となっており、第三に、生徒からも求められているものであったということである。地域社会でも家庭でも、大人と接触る機会の少ない子どもにとって、モデルとなる大人の姿を、子どもは教師に見ているのかもしれない。 このような知見を総合して考察するまでには至っていないが、教師役割(学校役割)の「縮小論」と「拡大論」の間で、学校現場では、何が求められているのかという点での有益な示唆が得られるのではないかと考えられる。
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