本研究では、大学における教育活動の活性化を図る教員の資質開発(ファカルティー・デベロップメント:FD)の実践と、その教育的効果を測定評価するための研究方法論、ならびに大学内外の組織的支援体制を創り出すことの可能性につき、文献資料と調査結果を基にして検討を行った。これらの課題は全て、過去に体系的な教員養成の研修過程を体験したことの少ない大方の大学教員を対象としたものであり、実践的FDプログラムの教育学的理論の構築と、その効果に関する実証的調査研究の事例を示すことを目的とし、下記の方法を用いた。 1)FD活動の理論的体系化を目指し、先ずカリキュラムの改善と教授技法の向上に関わる諸要因を抽出し、教育方法学・教育心理学・情報科学等関連分野の基礎的文献から学際的にFDの方法論的枠組みを構築することを試みた。 2)次に、前項の体系を基礎にして、FD活動の積極的推進者および実践中の現場教員、約200名を対象に、質問紙法による調査を2度実施した。 調査の内容は、(a)FD研修の課題とその到達目標、(b)各自が抱える具体的な問題点、(c)彼らを取り巻く教育環境上の阻害要因、(d)改善に向けての試策の事例、(e)その効果を判定するための基準と評価の方法の5領域である。最初の2項については評定表を使用し、後の3項については記述式で回答を求め、統計的処理と内容分析を試みた。 質問紙によるFD研修の事前・事後調査から、評定値の統計的処理によって研修効果を判定することは非常に困難なことが判明し、面接または記述式回答による追跡調査の重要性が改めて指摘されることになった。 3)最後に、前掲の5領域それぞれについて10数個の質問項目を用意し、回答を多角的に分析できる診断用チェックリストを作成した。そのプロフィールから、期待する教育目標や課題別に、阻害要因と見做される教員自身の教授技法や性格特性、学生たちの素質・学習意欲・勉学習慣、ならびに教育環境条件としての人的・物的・財政的支援体制や学園の雰囲気等を、「適正処遇交互作用」の視点から自己点検することが可能となった。 以上の成果から、本研究は、FD活動の単なる授業(講義・演習・実技等)の改善のみならず、大学の恒常的自己点検評価活動の中核として捉え、更に教員個人の生涯学習に役立たせる全学的に組織化された活動としての発展に資することを願うものである。
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