今年度は、(1)「東京帝国大学文学部教育学科」の5教官、すなわち吉田熊次、林博太郎、春山作樹、入沢宗寿、阿部重孝がそれぞれどのような教育学形成を試みたかを明らかにしようと、各々の教育学関係の著作の検討を進めた。多量の著作を読むのに時間がかかり、5教官の全員の教育学研究のそれぞれの特性を明らかにするには及ばなかった。しかし、たとえば入沢が当時の哲学的な教育学を批判し、科学的な教育学-理論と実践との結合した教育学への模索から、教育方法学や新教育の実践指導に関わっていった事実等を明らかにできた。ただ、科学的な教育学を志向した入沢が、戦時下において何故日本教育学に傾倒していったのかを軌跡が追えず、昨年に続く論文の完成には至らなかった。また、吉田の郷里での調査では書簡の発見など、貴重な資料を得ることができた。 一方(2)大瀬甚太郎を中心に東京分理科大学の教官たちの著作目録の整理も昨年購入したパソコンを活用して作成した。しかし、大瀬等の教育学研究を分析する段階で、戦前の教育学研究全体のマップが不十分なために、十分展開できなかった。そこで当初の計画にはなかったが、(3)同時代の教育学者、谷本富、稲垣末松等の著作の整理を新たに行った。 (4)『教育学研究』掲載の論文のリストの作成、収集、整理を行った。その作業過程のなかで、『教育思潮研究』と『教育学研究』との編集方針の違いや前者は後者より共同研究が多いなどの研究スタイルの特徴等が若干明らかになった。
|