戦前の大学における教育学研究の動向と水準を明らかにするために、この2年間、申請時に提出した研究計画に従い、次のような主な調査・研究を行い、研究成果を得られた。 第1に、東京帝国大学文学部教育学科及び東京文理科大学の主たる教育学者、即ち吉田熊次、林博太郎、春山作樹、入沢宗寿、阿部重孝、大瀬甚太郎、森岡常蔵、乙竹岩造の著作及び人物史に関する調査を所属していた大学図書館や人事課等における資料調査と資料収集を行った。そのほか、吉田熊次の郷里山形での調査や、入沢の関係者への聞き取りを行った。以上の調査に基ずき、上記の教育学者の著作目録と年譜を作成することができた。作成した目録と年譜を手がかりに彼等の論稿の調査分析を試みた。彼等が当時の教育学にどのような批判を持っていたか、時代の教育問題にどのような関心を持ち、自己の教育学研究を展開していったを少しづつ明らかにすることができた。しかし、一つの論文を位置付けるだけでも、上記の教育学者の著作の比較検討だけでは不十分であった。 第2に、当初の計画になかった教育学者の研究の動向の調査の必要性を感じ、谷本富、稲垣末松、中島半次郎、下田次郎、小林澄兄等の著作の調査を行い、谷本、稲垣、中島に関する著作目録を完成することができた。 第3に、東京帝国大学教育学研究室の研究誌『教育思潮研究』及び東京文理科大学教育学研究室の研究誌『教育学研究』の調査分析を行い、特にそれらの機関誌にそれぞれの教官がどのような研究論文を発表していたかを調査した。それぞれの教官のかなり中心的な論文を寄稿していた傾向等を把握することができた。
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