本年度は、20世紀初頭のドイツ、アメリカにおける幼稚園論争の検討、および明治末期〜大正期における幼稚園論の整理・検討を行い、以下の2編の論文にまとめた。 1.「森岡常蔵の幼稚園認識-W.ラインの影響を中心に-」 19世紀末から20世紀初頭にかけてドイツ、アメリカではフレーベル主義幼稚園をめぐる厳しい批判が展開された。それは幼稚園制度や内容、方法の改善の動きへとつながっていくが、とくにドイツでは統一学校運動との関連で幼稚園の制度的位置づけが論議され、それは日本にも影響を与えた。そこで本稿では、ラインら統一学校運動推進者の幼稚園制度論の検討を行い、ついでその影響を受けて「幼稚園令」の制定に尽力した森岡常蔵の幼稚園認識について考察した。その結果、森岡におけるラインの影響は多大であり、森岡は当時根強く存在した幼稚園不要論に対して、ラインの幼稚園論に依拠して社会政策的・国民教育的見地から幼稚園の必要性を説き、幼稚園令制定を推進したことが明らかとなった。 2.「大正期における幼稚園発達構想-幼稚園令制定をめぐる保育界の動向を中心に-」 大正期の日本ではドイツ、アメリカの幼稚園論争の影響を受けて、幼稚園論がさまざまに展開された。そうしたなかで、保育界においては幼稚園制度改革の必要性が強く主張されるようになる。本稿では、とくに1925年に開かれた全国保育者代表協議会において作成された幼稚園令内容案に着目し、大正期の保育界における幼稚園発達構想の検討を行った。その結果、代表協議会作成の幼稚園令内容案には幼稚園教育の特色を示した目的規定や、新教育の原理に基づく幼稚園カリキュラムの提示、小学校教員と同等の幼稚園教員の資格・待遇規定、幼保一元化の提案など、保育界の幼稚園発達構想が具体的に示されていたこと、そしてそれは戦後の幼児教育改革につながるものであることが明らかとなった。
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