平成10年度は本研究の最終年度であった。本年の研究は3年間の継続研究の総括に当たるもので、教育倫理学の構想の試論構築がその中身であった。そこに1おいてとくに問われたのは、20世紀の倫理的反省と克服の考察から導かれた知(性)あるいは知識と倫理、理性と感性および理性と身体性の関係性の教育応用学的考察であった。これらの考察を哲学研究にとどまらない教育実践理論としてひとつの応用倫理学に仕立て上げるについては、先の見えない困難性が存した。本研究にわずかにせよ独自性があるとするならば、応用倫理学と教育(実践)との複合学的立体化に腐心した点にある。 以上の研究のねらいと並んで、本研究は当初より20世紀の哲学と教育哲学の主流となってきた存在論に代弁される「現代思想」の克服という大胆な課題をかかえていた。それゆえ、応用倫理学と教育(実践)との複合的立体化とは、閉鎖的な主観への離反から「主体」そのものを解消してしまった20世紀という時代を教育哲学の視点から回顧し展望しようとする大胆すぎる試みでもあった。その問題提起のねらいは、科学技術の独走への危機意識と「責任性」の観念の蘇生である。科学(的認識)および科学技術は、すでに既定された運動については分析するが、そこにおいて「責任」という非科学的観念は無意味となる。教育倫理学の究極の問題は、教育的関係への問いを前提にしながら、先端科学技術の諸成果を享受しつつも「主体の自己に対する責任」と「他者に対する責任」を新たな展望のなかで再構築することにあった。この意味から、20世紀の哲学と教育哲学における「他者の不在」という特徴を考えるとき、「他者性」の概念は、「共同体的なものへの思索の欠如」ならびに「自然との相互依存関係の配慮の失敗」と表裏一体の関係において、本研究の中枢的テーマになった。研究成果は、1999年夏までに渓水社から刊行の予定である。
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