乳幼児期の教育は、本来家庭で行われる、本質的に私的な営みと長く考えられてきたが、近年急速に子育て中の家族に対する公的な支援が世界的に共通の課題となってきた。この趨勢の背後には2つの相補的な潮流が認められる。1つは教育的・文化的関心であり、他の1つは保護と世話の保障への関心である。乳幼児期という発達段階に位置するこの営みはこの2つの関心を分離したり、一方だけを優先して検討することは不可能である。常に教育の機能と福祉の機能を一体的に視野に捉えることが必要である。例えば、保護の方法そのものが、文化であり、教育の営為となっているからである。 本研究はこの関心から、乳幼児の教育・世話・保護のシステムを精査、比較し、社会の変化との関係性においても子どもと家族の状況をできるだけ解明し、乳幼児期の現代社会への組み込みの社会的システムの方向性を探ることによって、乳幼児期の比較教育文化的検討を行うことを目的としている。初年度の取組として本年度は、研究資料の充実と、研究方法の枠組みの構成を重点的に行った。育児文化を育児行動や、乳幼児と大人との相互作用として捉える時、その社会的表出としての保育方法の選択の在り方を検討する道具として、「発達の巣(niche developpementale)」という概念を援用することが有効であると考えるに至った。ここには「物理的・社会的環境」「世話の仕方や教育の習慣」「育児に対する大人の心理」という3つの潜在構造が含まれ、これら螺旋的な発展関係を持っている。したがってこれらの関係をいかに論証し、比較教育文化的考察を深めるかが次年度の課題である。 初年度の研究成果の発表の主なものとして、論文「フランスにおける家族の変化と幼少期サービスの状況を」を踏まえ、学会発表「フランスの育児文化の変容」(九州教育学会)を行った。これによって、フランスの保育所の発展過程を検討し、社会の変化や育児についての価値観の変化(開放の理念)、育児方法の変化(集団保育化の傾向)を明らかにした。
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