本研究は、近年の子どもを養育する家庭の様相・機能の変容を背景として生み出されてきた乳幼児の教育・世話・保護のシステムについての比較文化的検討を行い、乳幼児の現代社会への組込みの社会的システムの方向性を探ることを企図したものである。フランス研究を軸に日本・アメリカとの比較を予定し、資料収集とその検討を行ったが、成果としての公表はフランス研究の範囲にとどまった。ここで明らかにした点は、次の6点である。 (1)社会の変化とともに育児についての価値観が変化してきた。社会的文化的に恵まれた階層の女性の社会進出が進むとともに、その乳幼児の保育・教育の方法として伝統的な乳母のシステムよりも保育所や保育学校という集団教育の場が選択されるようになった。乳幼児の集団教育化が顕著となり、育児の社会化が進んだ。 (2)少子化現象とともに、家族のあり方が大きく変容してきている。多様な家族の形態が存在する一方で、家族のつながりは、子どもたちにとって貴重なものであり、資源としての家族という考え方が生まれている。 (3)家族の機能を補完する場として保育所や保育学校などの集団教育の施設の果たす役割が大きくなっている。とくに、さまざまな違いを乗り越えて連帯しあう社会の形成の鍵ともなっている。 (4)乳幼児期に培う能力を、生涯にわたる学習の始期として学力問題の見地から位置づけている(保育学校の学習指導要領、1995年)。 (5)保育所は、現在、親や地域とのよりよい関係を築くこと、及び乳幼児期からの文化的覚醒の重要性に着目した教育を重視している。 (6)保育所は、戦後、乳幼児死亡率の低下のために医療機関の一端に組み込まれて発展した。このことは、今日においても保育所の文化の決定的な要素となっている。
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