本年度は、アメリカ合衆国幼稚園史の基本文献であるKindergarten Circular(1917-25)やEducation、Outlook、Educational Reviewなどから幼稚園関係史料を収集するとともに、1820年代にニューヨークやボストン、フィラデェルフィアなどの都市にイギリスから導入された幼児学校の保育方法を明らかにすることに重点を置いた。American Journal of Educationには、ウィルダースピンの幼児教育論やゴイダーの手引き書、W.ウィルソン、W.ラッセルや、ベ-コンらの幼児学校論、さらにペスタロッチの幼児教育論などが詳細に掲載されていた。幼児学校教師の養成学校が存在していなかった当時においては、これらの幼児学校の理論と実際に関する情報やイギリスの各地で発行された幼児学校の手引き書は、アメリカ合衆国の幼児学校教師にとって拠り所であった。ニューヨークやフィラデェルィア、ボストンの幼児学校の実際に関する規定や報告を通して、アメリカの幼児学校は、イギリスの幼児学校、とりわけウィルダースピンの理論と実践に大きく影響されていたこと、また、ペスタロッチの幼児教育論もイギリスの幼児学校論を経由して、あるいはボストンのオルコットの場合のように直接にアメリカの幼児学校に導入されていたことが明らかになった。 幼児学校の保育方法の特徴は、次の通りである。(1)知識を感覚を通して教えるという実物教授が行なわれていた。(2)幼児のあらゆる能力の調和的な発達をめざしていた。(3)幼児の自然な漸進的な発達に応じた教育が試みられた。(4)教授の中に適度な間隔で運動やマーチング、楽しみが織り混ぜられ、遊び場での自由な遊びが保障されていた。また幼児学校の問題点として、次の4点が挙げられる。(1)暗記学習である。(2)想像力や審美感の領域における、詩や音楽、絵画の不適切な利用である。(3)実物教授を重視しているように見えても言語偏重主義に陥っていた。(4)遊びや幼児の友達関係に教育的意味を十分に認めていなかった。
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