心理的援助を必要としている病弱児の問題は、葛藤が行動化や身体化されて現れることである。そうして現れ出たものは、医療的ケアーの対象や問題行動として指導の対象として理解されることが多く、その意味することが何であるかと理解されることは少ない。 病弱児の葛藤は、それと気づくことなく、学習の場の中にしばしば表れ出ることが経験的に知られている。病弱児は、自身の心の体験を、授業で使われる教材に投影して表現することが多いのである。病弱児によって、こうして表現されたものが、自分の心理的問題への気づきやその克服をはかる出発点として受け止められるならば、身体化や行動化によって表している葛藤を心理的なこととして意識できるであろう。 本研究は、心理的問題をもつ病弱児に対して、学習の場の中に現れでたものを手がかりとして、心理的問題の克服の過程を授業を通して体験することによって心理的援助の実現をみようとするものである。 学習教材は、病弱児の葛藤状況に重なるような心理的経験内容を持ち、かつ葛藤の解決もしくは解決への可能性が示されているような内容を持つものが選ばれた。困難をかかえた病弱児は、その授業の中で、体験されていたであろうけれども、それと意識する事のなかった自身の問題に通じる内容を言葉にしていくことを経て、結果として葛藤の解決を得たことに気づく。このような体験をした病弱児は、自身の抱えていた葛藤に心理的なこととしてかかわることができるようになった。また、このような授業は、あらかじめしつらえられた意識的な教育計画に基づいてなされるような授業形態をとらないので、客観的にプログラム化されることになじまず、意味を追求していくような態度が必要とされることが明らかにされた。 心理的な問題の克服過程を授業の中で体験するという本研究の試みは、教育の場に心理的援助が強く求められている昨今の状況において寄与するところが大きいものと思われる。
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