本研究では従来の民俗誌にみられた問題点、すなわち現在の民俗を観察記録し、そこに存するさまざまな問題を取り上げてこなかったこと、民俗の変化に対応していわゆる伝統的なものの変容に十分な配慮ができなかったこと、調査される側の視点が弱かったことなどを考慮して、地元の人々がどのように自らの民俗を把握し、記録整理しているのか、という点から、それらを検討しようとした。 具体的には地元の人々が作成している字誌を対象として、完成までの営為とともに考察した。沖縄県名護市字辺野古と久志の2つの地域の字誌に関する資料の収集と現地での関係者からの聞き取り調査を進め、周辺諸地域の字誌の収集に努めた。これら地域の民俗を考察するためには、話者が一定期間字を離れ、他の民俗文化に触れてきたことから自己の民俗を相対化してとらえることができる点に着目した(研究発表参照)。また、辺野古では普天間の米軍ヘリコプター基地の移転問題が差し迫った問題として進行中であり、これが住民の自己認識にいかなる影響を与え、民俗の変容をもたらすのか、という点に大きな関心を払うことになった。直接字誌には反映するものではなく、さらに長期の観察記録が必要な局面ではあるが、本研究の期間中に資料の収集に努めた。字誌とは別に個人誌をまとめる動きもあり、それらは字誌の示した見解とは別のものを目指していることがある。個人の情報発信として、近年注目されている生活誌の方法とも関連して、検討しなければならない。今のところ辺野古で2点、久志で2点の自費出版物があり、これに門中レベルでの刊行物を加え検討した。
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