本研究では従来の民俗誌にみられた、現在の民俗をいかにとりあげるか、調査される側の視点をいかにとりこむか、という2つの問題点について、検討することを課題にした。 後者については、これまで伝承者として、その地に生まれ育ち私見を交えずに事例を淡々と述べるものを想定していたことを手掛かりとして再検討した。具体的にとりあげた沖縄県名護市の2つの集落の人々は、明治期のさまざまな法改正や経済的変動により、通婚の範囲が広がり、海外移民、本土への出稼ぎにより広い知見を得るようになる。また、父系的親族団体である門中が整備されるにつれ、集落の外に宗家をもつものは外とのつながりを常に意識するようになった。いわゆるタビにでる者が急速に増加したのである。これに兵役を加えると、その地に生まれ育った真の伝承者はほとんど存在せず、むしろ外の世界を知り、自らの民俗を相対化できるものばかりとなる。つまり、外部の調査者が持っていた調査者としての利点を、すでに現地の者が持っているのである。つぎに、伝承母体としてのムラを考えた場合には、「意識されるムラ」という把握が必要となることを指摘した。現代民俗とのかかわりについては、これらとの関連で郷友会や海外移民の先祖祭祀とユタの関与などが重要な問題となることが明らかになった。最後に、研究期間中に作成した沖縄を中心とする民俗誌目録を付した。
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