放牧における共有資源の伝統的管理と現代的適応-高山、阿蘇、米沢における家蓄管理の比較研究

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08610315
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 福井 勝義 京都大学, 総合人間学部, 教授 (60014510)
• キーワード: 環境認識 / 沖縄 / 共有資源 / 畜産 / 家畜管理 / 放牧 / 流通 / 異種間コミュニケーション

研究概要

本研究の目的は、国際的関心が高まっている地球上における共有資源の管理と運営について、だれもが自由にアクセスできる「コモン」と特定の成員しかアクセスできない「コミュナル」という概念を用いて、日本のいくつかの地域における放牧における共有資源の伝統的管理の比較を試みることによって、その歴史的変遷と現代的適応の多様性を調査し、現代日本における共有資源管理の特性を浮き彫りにしていこうとするものであある。
平成6年度から2年間にわたっておこなった一般研究「伝統的共有資源の管理と現代的適応-隠岐・島根半島における漁村の比較研究-」の成果をふまえ、隠岐の知夫村と島根半島の美保関町笠浦の補充調査をおこなうとともに、阿蘇、高山、そして沖縄の竹富町黒島と下地における放牧の予備調査をおこなった。沖縄の竹富町黒島と下地は、当初の計画には含めていなかったが、その後の情報により、きわめて対照的な放牧の管理形態がみられることから、この近接するふたつの島の予備調査をおこなった。その結果、つぎのことが明らかになり、今後この地域および与那国島をあわせて重点的におこなうとともに、比較研究の対象として岩手県の川井村と山形村における家畜の管理形態などの調査をあわせておこなうことによって、日本における放牧地という共有資源管理の特性を浮き彫りにしていきたい、と考えている。
沖縄の黒島と下地は、島全体が放牧地として利用され、本調査研究の調査地としてたいへん興味深いものがある。下地に関しては、かつての複数の私有地を石垣島出身の企業家が買い占め、石垣島のみならず本土との放牧地および流通のネットワークのうえにたって肉牛を目的としたきわめて合理的な家畜管理をおこなっていた。一方、黒島においては、村人の共同家畜管理と私的家畜の形態がみられ、今後歴史的な土地所有および土地利用の変遷を含めた共有資源の管理形態について調べていく予定である。

研究成果

• [文献書誌] 福井勝義: "The Relation Between Symbolism and Ecology" Circumpolar Religion and Ecology:An Anthropology of the North,(Irimoto,etc.eds.). 137-140 (1994)
• [文献書誌] 福井勝義: "「文化人類学からみた地域開発のあり方」" 『経済協力シリーズ第172号 援助の社会的影響』佐藤寛編アジア経済研究所. 215-228 (1994)
• [文献書誌] 掛谷誠など: "総合討論 人類史からみた環境の社会化」" 『講座地球に生きる2 環境の社会化-生存の自然認識-』掛谷誠編,雄山閣出版. 第2巻. 237-282 (1994)
• [文献書誌] 大塚柳太郎など: "「総合討論 新たな資源論を求めて」" 『講座地球に生きる3 資源への文化適応-自然との共存のエコロジー-』大塚柳太郎編,雄山閣出版. 第3巻. 243-283 (1994)
• [文献書誌] 福井勝義: "<学会発表>「21世紀における文化人類学の「生き方」-主体性の確立と多様化選択における生存戦略-」(人類学の「使い方」を考える分科会ヨクションA-II-5)" 『1995日本民族学会第9回研究大会プログラム研究発表抄録』. 41 (1995)
• [文献書誌] 福井勝義: "「序論 自然を内在化する文化装置」" 『講座地球に生きる4 自然と人間の共生-遺伝と文化の共進化-』福井勝義編、雄山閣出版. 第4巻. 3-14 (1995)
• [文献書誌] 福井勝義編: "『講座地球に生きる4 自然と人間の共生-遺伝と文化の共進化-』(講座地球に生きる:編集代表 福井勝義 全5巻の第4巻)" 雄山閣出版, 360 (1995)
• [文献書誌] 福井勝義など編: "Redefining Nature:Ecology,Culture and Domestication" Berg Publishers(in press), 608 (1996)