今年度は小本ではあるが、成果をまとめあげることができ、それと共に、国内外の研究者との意見交換を行う機会を数多く持てた。ケンブリッジ大学社会人類学のアラン・マクファーレン教授との意見交換は、特に示唆深く、彼の家族、宗教、法、政治、経済から社会構成主体を分析する方法論は、文化比較において有効と思われる。理論研究の進展には、当該対象地域と他地域との比較が重要になるが、筆者の研究は従来、イスラーム地域の国家形成過程とヨーロッパとの比較に限定されていたが、今後は両者の複線化と、さらに日本の伝統構造との比較も視野に入れていきたい。伝統的な多元的社会構造の観点からは、特に最近急速に理論的変化が起きている。日本近世の身分差別構造の研究成果から示唆を受けることが大きかった。信州農村開発研究所の斉藤洋一氏の助力を得た信州A村の被差別部落の聞き取り調査は実り豊かであり、今後も継続していく予定である。 さらに1998年1月に開催された国立民族学博物館地域研究センターの国際シンポジウム「中東研究の中のイスラーム:ムスリムとマイノリティ」では、Mコーエン教授教授はじめ、マイノリティ問題に様々な角度から取り組んでいる内外の研究者と情報交換できた。また2月に入って、チュニジアのアブドゥルジャリーリ・タミ-ミ-博士の知己を得、当地の学会動向の情報を得たことは、研究活動の発展に意義が大きく、今年度後半から予定している現地調査の重要な布石となった。 従来、日本にける民族問題やマイノリティ問題の研究者の層は薄く、研究もとかく孤立し独善的になりがちであったが、、本研究活動を通じて、この弊害が近年急速に改善されつつあり、理論形成と情報交換がダイナミックに行われる下地は充分できていることを確認できた。今後は、日本の研究者側からの発信が一層重要になろう。
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