本年度の研究では、(1)福江祭、(2)仁尾雨乞い竜、(3)地方博覧会市町村催事、のそれぞれに対する実地調査と、関係する民俗芸能・郷土芸能についての現況調査を、のべ6回にわたって実施し、フォークロリズムに関係する文献の収集整理を、あわせて行った。まず福江祭に関しては、関連資料の収集と10月5日・6日に実施された祭当日の参与観察調査を通じて、いわゆるイベント型の祭の具体例を把握することができたが、その成果をまとめるには至っていない。仁尾雨乞い竜の調査では、第二次大戦前に一度だけ行われた大がかりな雨乞い行事と、ながく地域に伝承されてきた雨乞い習俗をもとに、近年の瀬戸大橋架橋記念博覧会が契機となって、雨乞い竜が町おこしイベントの主役として再生される過程を明らかにすることができ、その成果の一部は『地域文化を生きる』(浮田典良編、大明堂、印刷中)の所収の論文「雨乞い竜の再生」として発表した。同様に、雨乞い竜と同じように、伝統を装いながら各地で数多く生み出されている和太鼓グループが、地方博覧会市町村催事の主要演目として処遇される現状を、他の民俗芸能・郷土芸能などとの関係を踏まえながら、香川県、岐阜県、三重県、佐賀県、広島県などを対象に調査研究した。とりわけ、ぎふ中部未来博覧会(1988)の市町村催事に和太鼓が新たな郷土芸能として大きな役割を果たした状況は、『民俗の思想』(宮田登編、朝倉書店、印刷中)に「祭りと踊りの地域文化」と題して発表した。また、各地の和太鼓が地域の郷土芸能としての役割を獲得してゆく過程と、伝統ある民俗芸能が文化財行政に組み込まれていく過程とが、ともに現代の「地域文化」の創出されゆく過程に他ならないことも明らかにすることができ、その一端は『たいころじい』14号(十月社、印刷中)に発表した。
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