本年度は、ラテン・アメリカ、とくに南米の博物館関係者に対するインタビュー記録のテープ起しを完成させた。一方でこれまで不足していた博物館関係資料は、博物館発行パンフレット、カタログ、博物館関係のセレモニ-に出席した政府関係者の発言を扱った新聞記事など多岐にわたるが、現地機関との間で連絡をとり入手につとめた。またラテン・アメリカの博物館を撮影した大量の写真フィルムについては、一部を現像し、引き延ばした。これらは、博物館における展示物の空間的な配置、パネルなどの補助装置をどのように利用しているかを示す重要な資料であり、展示する側の世界観が表出する場と考えられる。 こうした作業と並行して今年度は、博物館政策がどのように機能し、国としてのアイデンティティ形成にどのように寄与しているのか、あるいは全く反対に寄与していないのか、またそれは何故なのかという点について分析を始めた。暫定的な結論であるが、1989年に開館した南米ペル-国の国立博物館の場合、当時の政権担当政党であった中道左派のアプラ党の文化政策が深く関係していることが明らかになった。アプラ党の思想では、国民国家としてのペル-の統一を重んじ、そのイニシアティブをとるのが、海岸地帯における労働者階級であるメスティソと考えられた。したがって、そこには先住民文化の復権や尊重という視点よりもペル-国民としての意識が重視され、その結果、博物館という、文化を総合的に展示する場所にも係わらず、先住民文化は忘れ去られ、統合のシンボルとして都合の良い考古学的資料のみが展示されることになったと考えられる。
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