和歌山県紀州東照宮に奉納(現在神輿蔵に収納)されている絵馬11面を中心に、その裏書きに記載されている修復の年代や回数をふまえた上で修復方法の調査・分析を行なった。その結果、すべてに修復の痕跡が見られた。修復方法は、描き直しと剥落止め処置の大きく2通りに分類することができた。 描き直しには、もとの絵を新たに書き直したものや、剥落部分を描き直したものがみられた。描き直しの多くは、もとの画題と同じように忠実に描いているが、輪郭線のずれ等が見られた。また剥落部分を描き直したものは、完全にもとの絵具層を落とし切らず描いているため、新たに描いた絵具の接着力が弱くおそらく短期間に剥落が生じたと考えられる。現状の画面から以前の彩色や、金箔、輪郭線、墨書などが確認できた。 剥落止め処置は、あくまでも絵の具を落ちにくくすることで、完成した絵の上から膠や礬水などを用いて塗る二次的な処置であることが考えられる。修復された絵馬の資料的価値について考えるならば、オリジナルを忠実に再現していることでオリジナルと同等にとらえても良いのではないかと思われる。 以上の点から、紀州東照宮で行なわれてきた修復は、現在我々が文化財としての絵馬の修復を行う上で基本としている剥落止め処置ではなく、修復とは破損した絵を再現することであった。またそれらの中には、画題は忠実になぞり再現しながらも、空間の捉え方にその時代や作者の作風が主張されているものも存在した。今後、絵師の追跡(作風、関連作品も含めて)、箔や絵の具の使い方等の情報もあわせて収集することが必要である。 その他、松山市三嶋神社の「日露戦争絵馬」では、元の絵の描き直しを油絵の具で行なわれていた。 なお、これらのデータをコンピュータに入力し、データベースの作成を行なった。
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