本年度は(1)惣町的一揆の社会経済構造及び正当性意識に関する事例研究、を中心に、(2)天明期の全国的都市騒擾の地方的展開に関する事例研究、の一部について研究を実施した。 (1)については、諸藩領の都市で生起した銀礼騒動に注目し、鳥取・福井・金沢・佐賀などの事例研究を実施した。今回の研究により、銀礼騒動は幕藩間における経済的矛盾の都市における集中的表現として位置づけることができ、米騒動と並ぶ日本近世都市騒擾に一般的類型として措定できることを認識するに至った。18世紀に諸藩では財政窮乏・米価低落による幕府正貸確保の必要から藩札(特に銀札)発行・領内通用強制を図っていくが、引換正銀準備高の不足から銀礼信用の低下→物価騰貴が引き起こされ、質物借銀返済の混乱・質利の低下による金融渋滞→札会所への正銀引換ないし質屋騒動の展開→町方困窮の惣町的訴願の実施→札元や正銀上納町人に対する打毀しの展開、という騒動の過程を典型として検証できる。特に1756年金沢銀札騒動に関しては新史料を含む6種の騒動記録や町方経営帳簿の採集から、物価の激動、打毀しの実態、参加意識、加賀藩の銀札政策について、1763年鳥取銀札騒動に関しては惣町的御救訴願の組織的展開について、解明をおこなった。また、日光の1778年惣町一揆について社会経済構造分析を進めた。 (2)については、越前福井・三国湊、筑前秋月・甘木、筑後久留米の米騒動について基礎的史料の発掘を試み、秋月打毀しの展開過程と城下町の構造(場末町←→周辺農村の波及)との関連、明和〜天明期における北陸の米穀物地域流通の様相、1787年江戸米価高騰による三国湊からの福井藩廻米強化の動向、福井打毀しにおける銀札相場変動の影響、などの考察を進めた。また、加賀藩士の日記録から、天明江戸打毀しの過程と蜂起の正当性の宣言(木綿旗による所々への建立)に関する新史料を発見できたのは大きな成果となった。
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