本年度は(1)惣町的一揆の社会経済構造及び正当性意識に関する事例研究、を中心に、(2)天明期の全国的都市騒擾の地方的展開に関する事例研究、の一部について研究を実施した。 (1)については、平成9年度の研究において確認した「戸〆」と「米改め」の行動様式をとった地方都市騒擾の事例研究を実施した。まず、1769年(明和6)伊予松山城下町・1817年(文化14)近江下坂本門前町で起きた戸〆騒動の典型例や、その他播磨姫路城下騒動の調査研究をおこない、平成9年度の富山などの事例とあわせて、戸〆騒動の社会経済構造と正当性意識を考察した。その結果、戸〆騒動は惣寄-町寄などの町政機構を結合基盤としてほぼ惣町住民(借家人を含む)を組織化し、惣町的規模で「戸〆」 (諸商売停止)の実力行使をおこない惣町訴願を実現させようとする惣町一揆であることが明確となった。そして、「戸〆」の行動様式の背景には、仁政を実施せず財政金融政策などで町方全体の成立ち(個々の渡世・家業の成立ちを包摂する)を危うくさせた領主に対して町衆が自らの職分を一時的に止揚(=戸〆)して抗議することは正当であるとする社会意識(対領主関係意識を含む職分意識)が存在していたことをあきらかにした(「惣町一揆の論理構造-戸〆騒動を中心に-」に発表)。また、1833年(天保4)秋田土崎湊騒動の調査研究を実施し、「米改め」の実態に関する事例蓄積を進めた。その他、惣町一揆の典型とされる1786年(天明6)近江八幡騒動の史料調査をおこない、新史料を発見した。 (2)については、美作津山藩政文書・津山城下町史料の調査研究をおこない、江戸藩邸の買い米動向や1783・87年(天明3・7)津山城下町打ちこわしの分析をし、その背景にある米穀流通実態の考察を進めた。
|