本研究を通じて、(1)惣町的一揆の社会経済構造及び正当性意識に関する事例研究、(2)天明期の全国的都市騒擾の地方的展開に関する事例研究、について以下の成果を得た。 (1)については、従来の研究が惣町一揆→世直し一揆のシェーマにみられるように、運動主体の階層的性格の分析に集中し、惣町的一揆の運動形態(行動様式)および正当性意識の実態をふまえた運動過程やその社会経済的背景の分析をほとんどおこなってこなかった点を批判し、研究を実施した。地方都市騒擾の事例を通観した結果、多様な運動形態(行動様式)が確認できると同時に、いくつかの類型を設定できるという構想を得て、特に(1)戸〆騒動、(2)米改め騒動、(3)銀札騒動、などの事例研究を実施した。都市が幕藩制的分業編成=経済循環の結節点にあることから、幕藩対立を含む幕藩制経済矛盾に起因する藩の財政金融政策が直接に各都市経済の再生産を混乱・破綻させ、各地方都市騒擾の要因となっていることが判明し、「幕藩制矛盾の集中的表現」として体系的に地方都市騒擾を把握する視点を獲得した。また、「戸〆」や「米改め」といった独自な行動様式に着目した運動過程の内在的考察から、地方の惣町的一揆の正当性意識の背景に町衆個々の渡世・家業の有用性を社会的に位置づける職分意識の展開があることを指摘し、惣町一揆の社会意識を考察するフレーム・ワークの提出を試みた。 (2)については、幕藩米穀政策の矛盾やあらたな米穀商品流通の展開から、天明飢饉時には西国→大坂→江戸、諸国→江戸、の米穀流通が活発化し、全国米穀市場変動と米価騰貴=食糧危機の連鎖が形成されたとした拙稿「打ちこわしと都市社会」(『岩波講座日本通史 第14巻 近世4』1995年)の議論について、各地の動向から論証を深めた同時に、江戸藩邸社会の諸矛盾=動向を組み込んで天明期都市騒擾論を構築する視点を獲得した。
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