1.今年度は律令国家の郡司任用方法とその淵源について考究し、郡司制度の実態的変遷を検討する際に、その軸となる任用制度に関する知見を整理した。任用制度のあり方は律令国家成立以前のヤマト王権と地方豪族との関係に規制されたものであったが、8世紀の100年間で徐々に国家の必要とする資質・能力を有する郡司候補者の選定方法を確立し、9世紀初には譜第性を基準としながらも、3年間の試用制度によるチェックや国擬一本化による国司の吏僚としての郡司の位置づけにより、一応均質の郡司を選任することが可能になったと考えられる。これらの点については論文の形でまとめることができた。 2.次にその一方では9世紀後半には郡司制度に大きな変化が窺われることがわかったので、任用制度面以外でその変化を賚した原因、国家の地方支配の方策や郡司の社会的位置づけなどについて、9世紀後半以降の郡司の変遷を検討することが次年度への課題となる。この点に関連して、11月30日岡山大学文学部で行われた岡山古代史研究会において「儀式書等に見える郡司の任用方法」の研究発表を行い、10世紀以降の任用制度を展望し、郡司制の実態的変遷を考える糸口を得ている。 3.そして、郡司制の実態的変遷の解明と関連する基礎資料となる郡司表の作成については、概ね史料を収集し、一部作成パソコンへの入力を始めたが、さらに史料を収集し、次年度での完成、報告書への掲載をめざす所存である。その過程で9世紀後半以降12世紀くらいまでの郡司制度のあり方と実際の役割、郡司の動向などについてある程度の構想を得ており、次年度はこれらを論文にまとめることにしたいと考えている。
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