1.本研究では郡司制度の展開を考える上で1つの軸となる律令国家の郡司任用方法とその淵源、および10世紀以降の変遷を考究した。その結果、律令制当初から譜第に基づく郡司任用が行われ、この譜第任用を基準としながらも、8、9世紀を通じて、郡司の資質を国家が期待する形に近づけるために、郡司任用の諸法令が出されたことが明らかになった。この過程で地方家族としての郡司が律令官人の末端で地方支配を担う存在として位置づけられていくのである。また10世紀の郡司任用の儀式に関しては、これを律令国家の郡司任用方法の完成形態を示すものと理解し、そこから8、9世紀の諸法令の意味を探るという新しい視点を呈することもできた。以上の点については、いずれも論文として発表することができた。 2.以上の郡司任用方法と郡司制度の変遷との関係が次の課題になるが、この面では9世紀の擬任郡司制。10世紀の「国衙官任郡司」、11世紀以降の一員郡司制について知見を整理した。これらの問題は国家機構全体の変化と合わせてさらに考察を加えていく必要があり、この2年間では論文化までには至らなかったが、「国衙官任郡司」は雑色人郡司と称すべきであるといった研究史の見直しの方向も見出すことができており、今後の研究課題としたい。 3.郡司表の作成。郡司制度の実態的変遷を検討するための基礎資料となる郡司就任者の動向、各郡の譜第氏族のあり方や郡司任用制度の変遷との関係について、詳細な郡司表を完成し、報告書に掲載することができた。
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