本年度の調査成果の一番大きなことは、筑紫筝音楽の伝承譜の中に含まれている、雅楽「越殿楽」系曲ではなく、漢語名の曲について、従来は、中国の七絃琴曲を筑紫筝に移曲したのではないかと推測されていたが、中国の明楽曲と同名の曲が筑紫筝音楽の中に存在することが判明したので、七絃琴曲だけでなく、明楽曲を移曲した可能性も考えられるようなことである。明楽は、江戸時代初期に、長崎を拠点として北九州に伝来したもので、同じ頃、同じ北九州に誕生した筑紫筝音楽が、明楽の影響を受けた可能性は十分考えられ、現在は幻の音楽と化した明楽曲の研究の課題の一つとして加わった。 中国の七絃琴曲と明楽曲とは同名曲もあるので、三者の音楽面の比較研究が必要である。幸い、明楽および七絃琴曲の復元演奏研究に取り組んでいる研究者も見つかり(東京在住)、三者の音楽比較研究が可能となった。明楽は、本研究に適切な楽譜はほとんど無いため、明楽研究者の研究成果を活用させてもらしか方法がなく、また七絃琴曲は、楽譜は何種類が伝承されているが、解読が困難なため、やはり七絃琴曲研究者の助力を仰がなければならない。 現在、明楽および七絃琴曲の復元演奏をビデオに録画し、それの採譜・分析作業を進めている。また一方で、筑紫筝音楽の江戸時代中期に書かれた記録類解読結果の整理を進め、具体的に挙げられている寺や当時の伝承者リストアップし、所在の確認をするための現地調査も行っている。
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