本研究は、戦前期に東京および関東地方各県で行われた衆議院議員選挙および県会議員選挙の投票データを用いて、各府県において地方選挙と国政選挙がどのような関係になっているかを、政党勢力の動向とその地域的地盤関係に着目して分析したものである。本研究で収集したデータは、インターネットのホームページ(http://www.reitaku-u.ac.jp/〜rsakurai/fuken.html)において公開するとともに、関東地方各県における事例は、『地方政治と近代日本』と題する書物に記載した。特に研究の柱となった東京については、衆議院議員選挙・府会議員選挙・市会議員選挙の競争状況の変化と党派別得票率の変化に注目して、これら3選挙相互の関係を各区における選挙地盤の様相の変化と関連させて分析した。その結果、衆議院選挙結果と府市会議員選挙結果の間には、日露戦争の時期に乖離が見られること、その乖離の原因は、候補者の地盤として各区に存在した公民団体の統制力の変化によるものであることが判明した。すなわち1890年代において各種選挙に及んでいた公民団体の規制力は、日露戦争前後から衆議院選挙には及ばなくなり、明治末・大正期初期以後には府会議員選挙・市会議員選挙においても弱まる。これに代わって政党の各区における影響力が増していくことがわかった。また普通選挙実施前後における2大政党勢力の拡大の背後には、公民団体の衰退と政党下部組織への変化があったことを明らかにした。そしてそれが大正末期以後における衆議院選挙結果と府市会議員選挙結果の同調となって現れることを確かめた。この東京市内における状況の変化は、他の大都市(たとえば大阪)にも共通する現象であり、他の関東各県に関しても、大正末期以後における両選挙の同調現象については確認することができた。
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