初年度の1996年度は、基礎資料・文献の収集に当たるとともに、本研究が現在の日韓・日朝関係にもつ意義および日本、韓国における研究状況を整理した。 韓国・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、韓国併合に至る過程で日本と大韓帝国との間で結ばれた諸条約が不法であり、当初から無効であった、と主張している。この見解は以前からあり、1951〜65年の日韓会談でも韓国側の一貫した主張であった。北朝鮮もまた1991-92年に行われた日韓国交正常化交渉で、韓国併合条約等の無効確認を日本側に求めている。 このような条約無効論に対し日本の歴史研究者は概ね否定的である。私もまた『韓国併合』(1995年)で、条約締結交渉における日本の不当性を強調したが、当時の外交的慣習から見れば合法である、とした。これに対する韓国の研究者・運動体から批判が起きた。代表的論者はソウル大李泰鎮教授で編者『日本の大韓帝国独占』(1995年ソウル、カチ)において日韓議定書、第1次日韓協約、第2次日韓協約、第3次日韓協約および韓国併合条約の調印過程を実証的に分析し、日本側の強制的侵略行為が国際法に違反する不法なものであっただけでなく、形式的にも不完全なものであり、上記の諸条約は当初から無効であった、とする。 李泰鎮教授の論者は歴史研究者としての事実分析の面で評価すべき点も少なくないが、19世紀末〜20世紀初頭における国際法あるいは外交史上の解釈の面では説得力を欠く。 本研究はこれに対する反論としても進められることになるであろう。
|