平成10年度は、科研費による本研究の最終年度に当たるため、取りまとめ作業を中心に行った。その成果は別に提出する研究成果報告書にゆずるが、その作業中、ソウル大教授李泰鎮が拙著『韓国併合』(岩波書店、1995年)に対する批判を含む、1904〜10年の韓国併合条約をはじめとする日韓間条約の当初からの無効=不成立論と、1910〜45年の日本の植民地支配不法論を雑誌『世界』1998年7・8月号(「韓国併合は成立していない」上下)および1994年3月号(「韓国侵略に関連する諸条約だけが破格であった」)を発表した。これらは市研究と密接に関連するので反批判を、昨年11月、ソウルの落星台研究室研究会で口頭で発表するとともに、成果報告書には加えた。 李泰鎮説とは、日韓間旧条約は両国間の合意を欠いた強制条約であるあかりでなく、締結手続き上の欠陥と条約形式上の瑕疵があり、源泉的に無効であり、従って日本による韓国併合は成立せず、法的根拠をもたない「不法」な植民地支配を行ったのだから、日本は、その「不法」性に対し謝罪と賠償の責任がある、というものである。この主張は、従来、日本政府が朝鮮植民地統治は合法的に行ったのだから謝罪も賠償も必要なし、としてきた主張の裏返しにすぎず、説得性に欠くものである。 李泰鎮は、その論拠として旧条約の史料学的検討を通じて無効性と論証しているので、私も史料にもとづき、(1)条約の形式上の瑕疵の有無、(2)「第2次日韓協約」の無効原因とされる国家代表者に対する強制の評価、(3)「韓国併合条約」の締結過程などにつき再検討を行い、李泰鎮説が成立しないことを立証した。私見に対する李泰鎮の再論も予想され、小論争を予期しているが、日本にとって清算すべき「過去」とは何であるのかを明確にし、両目内の歴史認識の溝を埋めていく上で役立つことがあれば、それなりの意味があるものと考えている。
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