後世、修験道の開祖として知られる役君小角とその伝承について、伝承の原形を考察しながら、併せてその歴史と風土についての研究も行うのが、この研究課題の主たる目的である。備品として購入した諸文献、例えば、『吉野町史』などが記す点、『日本霊異記』などの説話文学作品の中に見える役行者伝説、また、修験道関連史科に散見する役行者小角の伝説などについて、これまでの研究成果及びその関連史科について、資料カードに取り、それらをつぶさに検討を加えながら、役君小角の伝承の基礎的な部分を検討し、また、新たな役君小角像とその伝承の過程などを明確にすることに努めた。 新たな役君小角像を求めるため、これまで知られている史料及びその関連伝説以外のものも追求することに努め、調査に赴いた機関などにおいて、『扶桑略記』古写本の転写本などを見出だすことなどができ、吉野の実地踏査では、役君小角伝承を生んだ風土とその歴史について、その実際をいくらかではあろうが、確かめることもできた。 これまでに明らかにし得た点については、「『扶桑略記』に引かれた二つの役小角伝承について」(今成元昭編『仏教文学の構想』所収、新典社、1996年)の中でも指摘したが、国史『続日本記』が示した点の他、伝承を加味した『日本霊異記』が記す以外にも、役君小角伝承の古い形態を伝えるものが、『扶桑略記』の中に引用されていることなどを見出だすことができたのは、本課題の研究成果のひとつである。
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