平成8年度に行って来た基礎的な調査研究成果を踏まえ、平成9年度は、役君小角の原像を構築するため、明治時代以来の先学諸賢の研究成果を分析し、従来から知られている諸史料を再検討するということを行った。 前年度に調査した役小角関係史料についても、再度確認のための調査を実施し、その伝承の中に含まれている史実を見出だすため、武田祐吉博士らの著作集を購入し、その研究成果の検討も併せて行った。 前年度からの懸案事項でもあった『扶桑略記』に関する調査研究は、十分に行うには至らなかったが、この確認調査の中で、新たに見出だした『日本名僧伝』逸文については、それを『日本宗教文化史研究』第1巻第1号(創刊号、1997年5月)及び『國諸逸文研究』第30号(1997年10月)の誌面に、それぞれ報告し、大方の批判を賜ることとした。 本研究による成果のうち、役君小角の関係史料に関しては、『研究成果報告書』の中に、詳細に整理してあり、また新たに明らかにした点も同様である。 簡潔に整理すれば、従来から知られていた『続日本記』『日本霊異記』『三宝絵』以外に『扶桑略記』に引かれた2つの伝承があり、それらの中には、貞観15年以前に成立をみたものもあり、上記の3つの既知の史料の中に位置づけることができ、これまでの役行者小角伝承関係史料を大きく広げ、またその位置づけを明確にすることができた。さらにこの新たに確認した2つの史料によって、実在する人物役小角像についても、幾分かではあるが、明らかにすることもできたのではないかと自負している。
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