本研究の目的は、鎖国期に来日し日本の近代化並びに西欧における日本研究の端緒を開いたドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シ-ボルトの調査、研究活動を具体的に知るために、フォン・ブランデンシュタイン家に残された膨大な文書資料の中からシ-ボルトの私信を抽出し、翻刻、翻訳を行うことであった。 研究の初年度に当たる平成8年度には、(1)1822年から1825年期の書簡の抽出と年代確定、(2)データーベースの構築、(3)翻刻を行うことを計画した。上記の研究、及び作業課題の進捗状況は下記の通りである。 (1)ブランデンシュタイン家文書のマイクロフィルムからの私信の抽出作業は、主として宮坂が担当し、久保(補助員)がデータ整理に当たった。シ-ボルトが江戸参府を行った1826年以前の時期を第一期とし、年代確定を行った。その結果、154点の書簡が確認された。この書簡の発信人、宛先などから、シ-ボルトの日本研究を詳細に知る上で重要な役割を演じたと見られる研究者、貿易関係者などが特定できた。 (2)上記の年代確定の済んだ書簡については、日付、発信人、発信場所、受取人等の項目に分けて、リレイテッド・データーベース・プログラムを使用し、1825年までの書簡をデータベース化した。今後、ブランデンシュタイン家文書に含まれる書簡を生涯にわたってデータベース化する予定である。 (3)翻刻、翻訳作業については、2度にわたる検討会で、翻刻、並びに翻訳上必要と思われる規定の確定を行った。特に、表記の統一、翻刻、翻訳に際しての作業手順などについて試験的に翻刻、翻訳した2点の書簡をもとに検討をくわえた。 今回の作業から、シ-ボルトがなぜ研究対象として日本を選び、どのような経緯でオランダ領東インド陸軍軍医となったか、その一端を示す記述を書簡中から発見することができた。今後も来日の動機、日本研究のコンセプト等についてさらに詳細な検討を行うつもりである。
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