本研究の目的は、昨年度に引続き江戸後期に来日し、日本の近代化に大きな影響を与え、またその一方で西欧における日本の科学的研究の道を開いたドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シ-ボルトの私信を中心とした文書資料を解読、整理し翻刻、翻訳を行うことであった。今年度実施した研究は下記の通りである。 (1)シ-ボルトの末裔フォン・ブランデンシュタイン家所蔵のシ-ボルト文書から抽出した私信から1822年分の解読、翻刻、翻訳を進めた。翻刻に際し、人物、場所の確定のための基礎データがほとんどヨーロッパに存在するため、翻刻と平行してドイツの関係各機関より必要なデータを取り寄せた。 (2)1825年までの私信の概要について目録のデータベース化を昨年に引続き進めた。本年度は特に単体の書簡として存在するものばかりでなく、他の文書中に引用されたり、添付されているものについても調査、確定作業を行った。 (3)翻刻、翻訳作業については定期的に検討会を開催し、表記方法、人物の特定、人物情報の交換、訳文の検討を行った。 今年度の作業で新たに発見された点は、シ-ボルトがオランダ軍医総督のもとへ出頭する以前にシ-ボルトの待遇が決まっていたこと。ボン大学所属の自然科学者たちがシ-ボルトのアジア調査に協力を申し出ていたことなどである。今後さらにシ-ボルトの来日決定の時期や動機、さらには調査のコンセプトなどについて調査を進めるつもりである。
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